響き合う歴史と現在
2009年、NHKテレビの連続ドラマで「つばさ」が放送されました。そのことで川越は、一躍、全国から注目を浴びるようになります。ところが終了後、その反響を利用した振興策がうまく展開されていないように思えます。川越がその魅力を発揮し続けるためには、地域の独自性をもういちど見つめ直す必要があるのかもしれません。
長い歴史を持つ川越には、さまざまな文化的遺産があります。それを示す代表的な言葉は何と言っても「蔵の街」でしょう。戦火を逃れた川越には、蔵町通りを中心に数多くの土蔵が極めてよい状態で残されています。ここを切り口とした新たな文化の創出が、川越をさらに発展させるための推進力になると思われます。
川越ではこれまでも、蔵を利用したさまざまな市街地活性化政策が行われてきました。しかし、同時代の芸術活動を取り入れた事業はまだあまり開かれたことがありません。蔵の構造の特殊性から、音楽や舞踊などの舞台芸術は利用上の制限が多すぎるのかもしれません。
しかしそうした蔵空間も、現代美術にとっては極めて魅力的な存在となります。なぜなら美術家たちは、歴史的な構造物に対し、常に現代的な視点から読み直しを行っているからです。実際、歴史的遺物を今日に蘇らせるための現代美術イベントが、今、各地で盛んに行われるようになっています。
川越の蔵は現在、その多くが商業用、観光用に改修され、本来の機能や歴史性が見えにくくなっています。本展では、若手の美術家が新たな観点からそこに流れる伝統を紐解き、現代的な視点からその視覚化を図ります。彼らのユニークな作品表現を通して、蔵の記憶とその今日的意義について見直していただければ幸いです。
●会場案内図
(作家/会場) 宮永亮/小川長倉庫、松本尚/蔵づくり資料館、狩野哲郎/龜屋栄泉、
荒神明香/仲町観光案内所、尚美学園大学学生/蔵里
© 2013 蔵と現代美術展実行委員会